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『アンチクライスト』@シアターN渋谷

 

 

ラース・フォン・トリアーの新作はいつも僕を惑わせます。

映画館に踏み入れるまで、オープニングは始まる前まで、その映画についての一切の情報を知りたくはないのですが、ラース・フォン・トリアーの場合、どうしても情報が入ってきてしまいます。

 

例えば『ドッグウィル』の場合だと「床に線が引いてあるだけのセットだけで撮影された実験的映画らしい」などの情報です。

 

今作でもやはり「エロティックすぎてとても日本では公開できない」といった情報や「シャルロット・ゲンズブールの性描写が史上まれに見る露骨さであり」といった情報が、ラース・フォン・トリアー作品を観る前に先行してしまうのは仕方がないことでしょう。

 

「観る前に試されている感」とでもいいましょうか、「お前はこの映画を観る勇気があるのか?」そんな問いを胸にスクリーンの前に座らなくてはならない、といった趣なのです。

 

で、観ました。

引用しますが「悲しみに暮れるカップルが森の中の小屋に引きこもり傷心と結婚生活のトラブルを修復しようとするが、自然が牙を向き自体は悪化していく」というコンセプトが力強く貫かれています。

 

ポイントは、主人公である夫婦しか登場しないということでしょう。ほぼすべてのシーンが二人だけです。他にはまったく登場しません。

 

このフリが絶望的なカットのフリだと感じたのですが、「二人だけしか登場しない」と「すべての人が同時に写っている」という奇跡のコントラストが表れてきます。

 

ラストカットでは、シーンとした劇場の最前列に座りながら、口元が歪みました。唇が渇いたわけでもなく、笑うでもなく、「この監督アホだなぁ」という口元になっていたのかもしれません。