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『アジャストメント』@新宿ピカデリー

 

 

 

サスペンスなので、まずは導入部分の筋を。

 

>主人公・デヴィッドは、アメリカ合衆国議会の上院議員候補。彼はある日、ダンサーであるエリースと運命的な出会いを果たす。2人が結ばれるのは時間の問題だったが、謎の集団にデヴィッドはさらわれてしまう・・・

 

とまあ、サスペンスなのでここまでしか書けません。

フィリップ・K・ディックの原作『調整班』は未読です。短編を長編映画に引き延ばしたらしいですね。

 

・・・サスペンスはこれ以上書けないのがつらい。

・・・ヒロインのエミリー・ブラントが光っています。

・・・マット・デイモンはいつものごとく頑張っています。

・・・「調整」というアレの視点も気持ちいい。

・・・106分も適尺ですね。

 

タイトルにもなっている、「調整」シーンがあるんですが、このシーンは最高です。世界が歪む瞬間に出会えます。

 

ああ、書けないのがつらい。こういった作品はみんなで観に行ってから30分喫茶店で語る、ような展開が望ましいですね。いちいち書くことも野暮ですし。とはいえ、良作です。最近で言うと、『アンノーン』とこの『アジャストメント』を両方観ると、2011年度版ヒッチコック風味が堪能できます。

 

最後に1つ。国民的漫画のあのガジェットそのままの設定、疾走感が半端ないです。

『メアリー&マックス』@新宿武蔵野館

 

 

 

クレイアニメーションです。

なんと1日に4秒しか撮影できないコマ撮りの手法だそうです。

この映画を観た後だと、1日に4秒だって本気で生きているのか? と問いかけてくるような手法です。

 

「1日4秒、コマ撮りする」

 

これはどうでしょうか。

 

「1日4秒、掃除する」

 

全然、綺麗になりませんね。

では、これは?

 

「1日4秒、PCのゴミ箱をチェックする」

 

ほとんど意味のない行動ですね。

何が言いたいかというと、1日4秒を効果的に使うと、こんな映画ができあがってしまうという驚きです。

 

オーストラリアに住むメアリーと、ニューヨークに住むマックスは一生出会うことはありません。が、生涯の友達となります。

 

「会ったことのない2人が人生の友である」

 

こんなことが日常に起こるから映画は素晴らしいし、それを観ている我々の現実も素晴らしい。そんなささやかなで不思議なプレゼントです、この映画は。

 

『ブラック・スワン』@新宿バルト9

 

 

 

 

ダーレン・アロノフスキーの新作、楽しみにしていました。

監督作としては最新作ですが、フィルモグラフィ的には製作総指揮の『ザ・ファイター』が最新になるんでしょうか。それにしても、『レスラー』と『ザ・ファイター』の間にこの『ブラック・スワン』がくるとは慌ただしいラインナップですね。

 

プロレスラー → バレリーナ → ボクサー、とフィジカルな映画が3本続いたことになります。この点は重要でしょう。アロノフスキー初期の「思考映画」とも呼ぶべき『π』や『レクイエム・フォー・ドリーム』とのルックスの違いに驚きますが、本質的には「極限の人間はどんな行動をするか」を徹底して描き続けた作家だと思います。

 

さて、『ブラック・スワン』ですが、『八日目の蝉』の井上真央よろしく、ナタリー・ポートマンの実人生と物語のリンクにより、画の凄みが増すという、観客にとってはプラスしかないキャスティング手法は最高ですね。

 

「お前の潔白なホワイト・スワンは完璧だが、官能的なブラック・スワンはまったくダメだ!!」という劇中の指摘は、「お前は清純派女優としては完璧だが、型にはまりすぎでもう1歩足りないんだよなぁ」という現実のナタリー・ポートマンに呼応します。

 

と同時にこれはアロノフスキー自信にも跳ね返ってくる言葉でもあります。「お前はロジック映画としては完璧だが、芸術という意味でもう1歩足りないんだよなぁ」と。

 

それに対する立派な答えを、ラストカットできっちり示していると感服しました。もし、完璧な芸術というものがこの世に存在するとしたら、こんな形でしかあり得ないのじゃないか、という前近代的な提示は、フィジカルな作品を3作続けた男の宣言であります。その力強い宣言を豪腕で自分でねじ伏せる。天晴れです。

 

タマフル情報ですが、クラブのシーンではサブリミナル的に様々なカットが挟まれているみたいですね。ストロボの最中、ナタリー・ポートマン以外の人が全員同じ顔になっていたり・・・などなど。あのシーンも素晴らしかった。クラブシーンでいうと、最近だと『ソーシャル・ネットワーク』でもクラブシーンがありましたが、あそこではザッカーバーグがショーン・パーカーとクラブの中2階みたいなところで密談をするというものでした。それに比べて『ブラック・スワン』ではフロアで思いっきりダンスします。しかもストロボで。フィジカルな映画というのは、そういった1つ1つのシーンの積み重ねなんだなぁ、と再確認しました。もちろん、『ソーシャル・ネットワーク』のそのシーンもIT的に言えば正解なんだと思いますが。これ以外にもクラブシーンがある映画は多いです。時間があったら比較・分析してみたいなぁ。

 

そのシーンを確認するためだけでも、これはもう1回観に行かなくては、ですね。