2011.04.12 UP
『ブンミおじさんの森』
『ブンミおじさんの森』@シネマライズ
1年に数回、「この映画を観て本当に良かったなぁ」という幸福な出会いがあります。もうそれは1人の大親友を見つけたようなものです。
去年の東京フィルメックスで観て、今年もシネマライズで観て、もう1回観る予定です。「大震災を経た今だからこそ、この映画をアクチュアリティを持って観ることができる」などと嘯くつもりはありませんが、体が覚えているのかもしれません。
アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の過去作品を鑑賞できていないのは残念なのですが・・・いつも通り印象的なショットをいくつか記すくらいしか、今はできません。
・オープニングの水牛を舐めるようにしつこく追う
この出だしにはイカれました。「主人公は水牛か?」という直感と緊張感が3分は続いたと思います。もちろん、主人公はブンミおじさんと言えるとは思うのですが、ある意味ではこの水牛も主人公なのです。というか、この映画は主人公という概念すら怪しいです。水牛も、虫も、木々も、女王も、未来の子どもも、そして「時間」さえも主人公たりえるのです。それは監督の言う「一般的な輪廻は信じていないけど」という留保つきだとしても、ショットを観ていれば感じてしまう類のものです。
・ラストシーン直前の「時間」の分裂
この流れからPenguin Villaのポップチューン「Acrophobia」がかかる店内のシーンで現代に我々は引き戻されます。うまく言葉がみつからなく「分からない」という状況を肯定するつもりはありませんが、そもそも本当の意味で「分かる映画」なんて存在するのでしょうか?
2011.04.10 UP
『ファンタスティック Mr.FOX』
『ファンタスティック Mr.FOX』@新宿武蔵野館
この時代にストップモーション・アニメ映画を大胆にも撮ってしまうウェス・アンダーソンに、「あっぱれ」と言って握手をしたい気持ちでいっぱいです。
1秒間24コマでパペットを撮影していく想像を絶する愛情から生み出された作品、ということを無視したとしてもほとばしる「幸福」さがスクリーンにずっと漂っています。
タイトルの通り、キツネが主人公です。
1つのパペットにつき、4サイズを作り、全編を通して500体以上もの(!!!!!!!!!)パペットを製作したのには、驚きを通り越して感謝の気持ちすら浮かんできます。
スクリーンには赤色と茶色を基調にし、「物語の幸せさ」をフォローし続けます。その「幸せさ」は「ユーモア」とも置き換えられるかもしれませんが、僕は前者をとります。
そして、ラストカットのシーン。僕らが毎日のように出向く「あの場所」で物語は終わりを告げます。このカットにより、「幸せ」だけではなく、「悲しみ」も同時に受け取らざるを得ません。「幸せ」と「悲しみ」が同時に感じられるパペットアニメ、これは名作の最低条件であり必要条件ではないでしょうか。とにかく素晴らしく愛おしい作品です。
2011.04.10 UP
『シリアスマン』
『シリアスマン』@ヒューマントラストシネマ渋谷
コーエン好きでも、積極的には足が向かないという不思議な作品です。
「コーエン兄弟が、実際に少年時代を過ごした中西部のユダヤ人コミュニティを舞台に描く異色のブラック・コメディ」という説明の通りなんですが、ユダヤ教を軽くでもいいので勉強してから見るのを強くお勧めします。
主にギャグが連発されるのが、ラビ(ユダヤ教指導者)の登場シーンです。
物語ではたくさんのラビが登場し、主人公は様々な苦難をラビに相談していきます。「どうやって生きていけばよいのか?」と。
そこでのラビたちの答えが秀逸です。
・ロングセットの歯医者エピソードを聞かせるが、オチがない
この下りはタメが効いていて名シーンの1つです。まだあります。
・物語上最高職のラビがもの凄く暇そうなのに、秘書に「今、忙しい」と言われる
このショットは「秘書がドアを開け、その奥にラビがどっしりと座っており、じっくりズームしていく」という1カットが緊張感を持続させています。
そして、再び秘書に寄って“オチの一言”という流れが素晴らしいです。
と、このように1つ1つのギャグシーンを挙げることはできるのですが、各ギャグが映画全体に有機的に効いているとは言い難いのが悲しいところです。つまり、ラビに関する1発ギャグをたくさん見せられているような体感しかできないのです。少なくとも僕は。もちろん「シリアス」というハードルを上げているからこそ笑える部分も多いのですが、“そんな分かりやすい落差は知ったことか!!”とつぶやきながら映画館を出ました。